Vol.3
小野瀬慶子が紡ぐ素材と色のストーリー

Aug 18 , 2016

小野瀬にとって、デザインとは、「素材と色のストーリー」を紡ぐこと。頭の中にイメージとしてある「本能的に気になるもの」―たとえば2016年の秋冬コレクションでは、「ボリューム感。布の量がつくる豊かな感じ」―に、素材ならどんなもの? カラーならどう? と、具体的に組み立てていく作業なのだと言います。「何かテーマや、具体的な女性像があるわけではないんです。日々、自分のなかに入ってくるたくさんのものが、消化され、蓄積されて、デザインとして表れてくる、という感じでしょうか」

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たとえば、「CYCLAS」最初のコレクションのひとつである、キャメルカラーのカシミヤコート。ボリュームのあるシルエットに、「日本ではあまり見かけない、赤い濃いキャメルカラー」と、「素材の上質さにこだわったカシミヤ」をダブルフェイス仕立てにした、贅沢な一枚です。赤みのあるものからイエロー系まで、キャメルカラーのバリエーションがあることも、色のストーリーを感じさせます。

「The SECRETCLOSET」を、立ち上げから見てきたあるお客様は、「CYCLAS」のコレクションを見て、「あ、こういうことがやりたかったんだな、と思った」とおっしゃいました。その言葉を受けて、小野瀬はこう言います。
「世界に向けてやっていこう、と決めてからも、ものづくりへの姿勢やチームとしての仕事のやり方が変わったわけではないんです。ただ、自分がいいと思うことを、よりストレートに形にしようと思った。『The SECRETCLOSET』のコレクションのなかでも、よりやりたいことをやるパート、ですね。それまでは、『まあこれはさすがに無理かな』『値段が高くなってしまうから売れないかも』と、自分のなかで取り下げていたことも、諦めずに『やってみよう』と」

そうした小野瀬の、ものづくりへの覚悟が宿っているからこそ、「CYCLAS」のコレクションは、言葉を尽くさずとも世界で認められたのかもしれません。「商品のよさを、説明がなくてもわかってくれる人たちに出会えたことで、世界に進出するきっかけができた」と小野瀬が言うように、2016年1月のパリのショールームでの展示会デビューを皮切りに、N.Y.、イタリア、韓国と、「CYCLAS」は、真のラグジュアリーを知る人たちにしっかりと評価されながら、大きく羽ばたいていったのでした。

「『The SECRETCLOSET』は、ビジネスとして大きくしようと思って始めたことではないんです。自分でできる範囲のことでやっていこう、と立ち上げたお店だった。その"自分のできること"をちょっとずつ進めてきた結果、今がある、という感じです。大人の女性の気持ちにマッチするものを提供していきたい。昨シーズンより今シーズン、今シーズンより来シーズン、よりいいものをつくり続けていきたい。そうして歩んできた道が、世界に通じていたんだと思います」